需要ということ

日本でよく言われる、お客様は神様です、という考え方、これが嫌いだ。お客様はお客様であって神様ではない。あれは「おもてなし」のことを言っているのであって、よくありがちな「お客様の欲しいものを」「お客様の欲しい値段で」「お客様の欲しいときに」提供することではないと思うのだ。 

製造業でもサービス業でも、「お客様の需要」に対して応えることがメーカーなりお店の使命ではないはずだ。客の要求を超えてこそのメーカーでありサービスのはず。有名なフォードの言葉に「客に何が欲しいと聞いていたら、客はもっと速い馬が欲しいと言っただろう」というものがある。また、スモールビジネスマーケティングには次のような一説があった。「顧客が欲しいのは高い価値であって低い価格ではない」顧客が減っているだけでなく、ライバルが増えている状況で価格競争になり、安い商品をつくるために機能を削るという現在の戦略は長期的には自分の首を絞めている。それでは新興国に追いつかれるだけだろう。 

ところで若者のビール離れが進んでいるらしい。この問題の特集を見ると、「苦い」「ダサい」などの問題点を連呼している。メーカーは苦くないビール、パッケージのおしゃれなビールを開発し始める。結果、今までのビールはダサくて苦くて不味いと宣言しているようなものではないか。ビールが苦くて好きじゃない人は確かにいるだろう。が、イメージが先行していたり、飲まず嫌いの人だっているだろう。なぜ胸を張って「ビールは美味しいですよ」と言い切れないのか。最近ではノンアルコール需要に対して様々な製品が出ている。が、運転等の理由で「飲みたいが飲めない」需要ならまだしも、「お酒が嫌い」な需要に対して、なぜお酒の味がするノンアルコール飲料を提供しているのだ。だったらファンタのほうが美味いじゃないか! 

がんがんCM打ってブームにして売り上げるのもいいのだけれど、ただ流行っているから追従するだけのメーカーが多すぎると思う。お客の要望に応えるのではなく、客が想像もしなかった体験を与えるのがメーカーの役割だ。同じノンアルコール飲料についてでも、取材を受けたバーテンダーは言っていた。「昼間に飲酒する習慣のない日本人のお客様にノンアルコール飲料を提供して、もっとランチを楽しんでいただきたい。」同じ製品であっても、これが需要を作るということではないだろうか。

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